イスラエルの VC 15年の歴史 1


イスラエルの VC 15年の歴史


2008 年は、実はイスラエルにとっては特別な年である。イスラエル建国 60 周年にあたり、イスラエルの VC 産業ができて 15 年となる。2008 年のベンチャー産業への投資額は、昨年と同様 15 億ドル程度が予想されている。


イスラエルの VC の歴史は意外と短い。1993 年 イスラエル政府の Yozma と呼ばれるプログラムを皮切りに、2000 年以降急速な発展を遂げてきた。15 年 の歴史がある VC 産業であるが、盛んになってきたのは 2000 年以降である。1992 年から 2007 年までの間に総額で 124 億ドル程度が、イスラエルのテクノロジーカンパニーを中心に投資されてきた。2000 年以降は全投資額の 70 %ほどを占める 87 億ドルが投資されているのである。


VC の発展を支えてきた理由の一つは、イスラエル国外からの投資を積極受け入れる制度にある。現在年間投資額の 50 %以上はイスラエル国外からのものだ。2007 年と 2008 年は 60 %以上にもなる。この投資はイスラエルの VC 等が一緒に行って投資を行う形が 8 割を占めている。


そもそもイスラエルは何故これほどまで、ハイテク産業が盛んで、VC 産業が発展してきたのか?


は誰もが思う疑問。その大きな理由の一つとしてあるのは、イスラエルの技術的なイノベーションが、投資対象として魅力的なものであることが一つであろう。また、イスラエルからの成功の話が広がれば広がるほど、ますます、国内外問わず、投資資金が集まるという好循環を生み出している。VC を中心とした社会的なエコシステムとなっている。


では、どうやってこのエコシステムが生まれ、何がこのエコシステムを生み出しているのだろうか?


という疑問は当然湧き上がってくる。


どういうエコシステムかというと、イスラエルのハイテクを充分知っている方であれば、既に聞いたことがある話かもしれない。イスラエルのテクノロジー産業は、VC や 投資資金とともに急速な発達を遂げてきた。ただ単にファンドが在るだけとか、投資したとかの単一の理由ではなく、多くの要因が関連し、イスラエルの VC を中心としたエコシステムを成立させている。こうしたエコシステムを成立させている要因の一つ一つは、他国には存在するだろう。ただ、他国には存在しないイスラエルにしか存在しない理由が多く存在する。こうした他国に存在しない理由が関連していることが、わずか 15 年という短い間に急速な発展をもたらし続けているのだろう。と推測する。


では、15周年記念ということではないが、まとめると、VC 産業発展の理由をまとめてみる。日本も学べる点が在るのだろうか?


1.人的ネットワーク
非常に狭い地域に、高いハイレベルの大学が存在する。(大学自体は日本もあるが、地理的に狭い地域に密集仕切れていない?)
よく言われる話だが、1990 年以降ソビエトからの移民をうまく受け入れ、優秀な技術を吸収できた柔軟性。


2.地理的な環境
どの男性がどの女性と付き合ったとかが同じ学年ではリアルに分ってしまうぐらい地理的に狭いし、学校も少ない。同年代の人的ネットワークの狭さが強固な信頼できるネットワークを作るのを後押ししている。起業してもその友達が誰であるとか、どこ出身の誰であるとかがわかってしまう。(いい意味で)逃げることが出来ない、逃げにくい。(笑)


3.起業文化
産業の発展の根幹を担う起業文化が発達している。「起業精神がある」や「起業環境が整っている」のではなく、起業文化が根付いている。第三のシリコンバレーや、中東のシリコンバレーと呼ばれる所以である。メディア戦略もあると思うが、こうした点もうまく海外からの投資資金を集められる理由となっている。


投資家から見て世界には起業環境が整っている地域は世界中に何箇所かあるかもしれない。起業環境だけということであれば、世界のほかの地域にも存在するだろう。ただ、文化となると、シリコンバレーなど一部の地域などに限られるだろう。総合的に見て起業文化が他の地域と比べて確実に高いのである。


4.民間転用
1970年代の戦争時、軍事産業から民間転用し成功した経験がある。これは、現在のソフトウェア、通信、半導体産業の基礎ともなっている。これが人的ネットワークと組み合わさっている。また、徴兵制度があるため、イスラエルの起業家は人生の若い時期において最先端の技術にふれ、それを民間転用できるチャンスが多い。最新の基礎研究、知識、機器に触れることが出来るので、退役後の投資が最低限ですむ。


5.グローバルテクノロジー企業の R&D 施設の集積
(テクノロジーを何とするかは置いておいて、)グローバルテクノロジー企業にとって、イノベーションや最先端の多くの技術をイスラエルの人材は有している。この点は、非常に魅力的であり、 R&D 施設を設立するのにこれ以上ない理由となる。そのためグローバルテクノロジー企業の R&D 施設が集積している。MotorolaIntel、eBay、Google、SAP、Cisco、TI、Simens など挙げればきりがないが、150 以上のグローバルテクノロジー企業の R&D センターが存在している。


こうした R&D の研究施設が多く存在していることは、一企業にとって有益になることはもちろんである。さらに、中長期的にイスラエルから R&D に特化した人材を多く輩出する。さらに、そうした人材が、イスラエル国内にいながら世界規模で展開する企業のマネジメント層とのネットワーク構築や、世界規模で開発をする視野を見につけられる。


続く・・・。


( 2008 年 5 月 9 日 )
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